、あなた、何をしていらっしゃる。」
豆ランプの光で見るスズメの顔は醜《みに》くかった。森ちゃんが、こいしい。
「ひとりで、こわかったんだよ。」
「闇屋さん、闇におどろく。」
自分があのお金を、何か闇商売でもやってもうけたものと、スズメが思い込んでいるらしいのを知って、鶴は、ちょっと気が軽くなり、はしゃぎたくなった。
「酒は?」
「女中さんにたのみました。すぐ持ってまいりますって。このごろは、へんに、ややこしくって、いやねえ。」
ウイスキイ、つまみもの、煙草。女中は、盗人の如《ごと》く足音を忍ばせて持ち運んで来た。
「おしずかに、お飲みになって下さいよ。」
「心得ている。」
鶴は、大闇師のように、泰然《たいぜん》とそう答えて、笑った。
その下には紺碧《こんぺき》にまさる青き流れ、
その上には黄金《こがね》なす陽の光。
されど、
憩《いこ》いを知らぬ帆は、
嵐の中にこそ平穏のあるが如くに、
せつに狂瀾怒濤《きょうらんどとう》をのみ求むる也《なり》。
あわれ、あらしに憩いありとや。鶴は所謂《いわゆる》文学青年では無い。頗《すこぶ》るのんきな、スポーツマン
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