えないでしょうね。あなたはもう、あたしが帰って来てから、二、三箇月間は朝から晩までこの家にいりびたりで、あたしのお父さんもお母さんもあんな気の弱い人たちばかりだから、あなたに来るなとも言えないで、ずいぶん困っているようだったから、あたしがあなたのお家へ行って、(言いながら、ふと畳の上に落ち散らばっている線香花火に目をとどめ、一本ひろってそれに火をつける。線香花火がパチパチ燃える。その火花を見つめながら)あなたのお母さんと、あなたの妹さんと、それからあなたと三人のいらっしゃる前で、あんなにしょっちゅうおいでになっては、ひとからへんな噂を立てられるにきまっているから、もうおいでにならないようにと申し上げて、それからぱったりあなたもおいでにならなくなって、(花火消える。別な一本を拾って、点火する)ほっとしていたら、こないだ突然あんな、いやらしい手紙を寄こして、本当に、あなたも変ったわね。村でもあなたは、ひどく評判が悪いようじゃないの。
(清蔵) いやらしくても何でも仕方がありません。私はあの手紙は、泣きながら書きました。男一匹、泣きながら書きました。きょうは、あの手紙の返事を聞きに来ました。
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