いうのか、そんなのがあるというのは、事実だな?
(数枝)(不機嫌になり)いいじゃあないの、そんな事は。(舌打ちをする)なんにも言わなけあよかった。
(伝兵衛) お前が言わなくたって、どこからともなくおれの耳にはいって来る。
(数枝) もったいぶらなくたって、わかっているわよ。お母さんでしょう?
(伝兵衛)(軽く狼狽《ろうばい》の気味)いや。
(数枝)(小声で早口に)そうよ、それにきまっているわ。お母さんはまた、どうして勘附いたのかしら。ばかなお母さん。
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間。
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(伝兵衛) あさから聞いた。しかし、あさは、決して、何も、……。
(数枝)(それを相手にせず、急に態度をかえて)お母さんは、どこへ行ったの?
(伝兵衛) 鱈《たら》を買いに行かなくちゃならんとか言っていたが。
(数枝) 睦子をおぶって?
(伝兵衛) そうだろう。
(数枝) 重いでしょうにねえ。あの子は、へんに重いのよ。いやにおばあちゃんになついてしまって、いい気になってへばりついてる。
(伝兵衛) お前の小
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