たちは浪岡の駅に着いて、まだ時間がかなりあったので、私たちは駅の待合室のベンチに腰かけてお弁当をひらきました。その時、あなたのお弁当のおかずは卵焼きと金平牛蒡《きんぴらごぼう》で、私の持って来たお弁当のおかずは、筋子《すじこ》の粕漬《かすづけ》と、玉葱《たまねぎ》の煮たのでした。あなたは、私の粕漬の筋子を食べたいと言って、私に卵焼きと金平牛蒡をよこして、そうして私の筋子と玉葱の煮たのを、あなたが食べてしまいました。私もあなたの卵焼きと金平牛蒡を食べて、なんだかもうこれで、私たち二人の血がかよい合ったような気が致しました。いまここで別れても、決して別れきりになる事はないんだ、必ずまた私のところへ来て、きっと、夫婦、……ええ、そう思いましたのです。私はあの頃二十三、四になっていたでしょうか。この村では、とにかく中等学校を出ているのは、私ひとりで、あなたと一緒になれる資格のあるのは私だけだと、その前からぼんやり考えていた事でしたが、あのお弁当のおかずを取りかえて食べて、そうして、あなたのお母さんが、あなたに、清蔵さんのおかずは特別においしいようだね、と笑いながら言ったら、あなたは、だって清蔵
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