衛、あがく。あさ、必死にとどめる。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]――幕。

     第二幕

[#ここから2字下げ]
幕あくと、舞台はまっくら。ぱちと電燈がつく。二階の数枝の居間。数枝がいまその部屋の電燈をつけたのである。部屋には寝床が二つ。一つには、睦子が眠っている。数枝は寝巻き姿で立っていて、片手で、たったいま電燈のスイッチをひねったという形。片手を挙げてスイッチをつかんだまま、一点を凝視している。その一点とは、下手《しもて》の雨戸である。雨戸が静かにあく。雪が吹き込む。つづいて二重廻しを着た男が、うしろむきになってはいって来る。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
(数枝)(ひくく、けれども鋭く)どなた? どなたです。
(男)(雨戸をしめ、二重廻しを脱ぎ、はじめてこちら向きになって、その場にきちんと坐る。村の人、金谷清蔵である)私です。かんにんして下さい。(まじめに、ちょっと頭をさげる)
(数枝)(おどろき)まあ、清蔵さん。どうなさったのです。(素早く寝巻きの上に、羽織をひっかけ、羽織|紐《ひも》を結びながら、部屋の炉のと
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