渡り鳥
太宰治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)快楽《けらく》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)無帽|蓬髪《ほうはつ》の、
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)おれが[#「おれが」に傍点]その羊を食う
−−
[#ここから7字下げ]
おもてには快楽《けらく》をよそい、心には悩みわずらう。
――ダンテ・アリギエリ
[#ここで字下げ終わり]
晩秋の夜、音楽会もすみ、日比谷公会堂から、おびただしい数の烏《からす》が、さまざまの形をして、押し合い、もみ合いしながらぞろぞろ出て来て、やがておのおのの家路に向って、むらむらぱっと飛び立つ。
「山名先生じゃ、ありませんか?」
呼びかけた一羽の烏は、無帽|蓬髪《ほうはつ》の、ジャンパー姿で、痩《や》せて背の高い青年である。
「そうですが、……」
呼びかけられた烏は中年の、太った紳士である。青年にかわまず、有楽町のほうに向ってどんどん歩きながら、
「あなたは?」
「僕ですか?」
青年は蓬髪を掻《か》き上げて笑い、
「まあ、一介
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