の日に、あちこち裏切って、ずいぶん得して、のち、仕組みがばれて、昼日中は、義理がわるくて外出できず、日没とともに、こそこそ出歩き、それでもやはりはにかんで、ずいぶん荒《すさ》んだ飛びかたしている。そう、そう、忘れていました、たしかに、それに、ちがいない、いや、あなたのことではございませぬ。私内心うち明けて申しましょう。実は、どうも、わが身、きたなき蝙蝠と、そんなに変らぬ思いがして、どうにも、こうにも、閉口しているのです。生きて行くためには、パンよりも、さきに、葡萄酒が要る。三日ごはん食べずに平気、そのかわり、あの、握りの部分にトカゲの顔を飾りつけたる八円のステッキ買いたい。失恋自殺の気持ちが、このごろになってやっと判ってまいりました。花束を持って歩くことと、それから、この、失恋自殺と、二つながら、中学校、高等学校、大学まで、思うさえ背すじに冷水はしるほど、気恥ずかしき行為と考えていましたところ、このごろは、白き花一輪にさえほっと救いを感じ、わが、こいこがれる胸の思いに、気も遠くなり、世界がしんとなって、砂が音なく崩れるように私の命も消えてゆきそうで、どうにも窮して居ります。からだのやり
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