二十世紀旗手
――(生れて、すみません。)
太宰治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)焔《ほのお》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今宵|七夕《たなばた》まつりに
−−
序唱 神の焔《ほのお》の苛烈《かれつ》を知れ
苦悩たかきが故に尊からず。これでもか、これでもか、生垣へだてたる立葵《たちあおい》の二株、おたがい、高い、高い、ときそって伸びて、伸びて、ひょろひょろ、いじけた花の二、三輪、あかき色の華美を誇りし昔わすれ顔、黒くしなびた花弁の皺《しわ》もかなしく、「九天たかき神の園生《そのう》、われは草鞋《わらじ》のままにてあがりこみ、たしかに神域犯したてまつりて、けれども恐れず、この手でただいま、御園の花を手折《たお》って来ました。そればかりでは、ない。神の昼寝の美事な寝顔までも、これ、この眼で、たしかに覗《のぞ》き見してまいりましたぞ。」などと、旗取り競争第一着、駿足の少年にも似たる有頂天の姿には、いまだ愛くるしさも残りて在り、見物人も微笑、もしくは苦笑もて、ゆるしていたが、一夜、この子は、相手もあろに氷よりも冷い冷い
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