、カメラ珍らしく、カメラ納めた黒鞁《くろかわ》の胴乱《どうらん》、もじもじ恥じらいつつも、ぼくに持たせて、とたのんで肩にかつがせてもらって、青い浴衣に赤い絞り染めの兵古帯《へこおび》すがたのあなたのお供、その日、樹蔭でそっとネガのプレートあけて見て、そこには、ただ一色の乳白、首ふって不満顔、知らぬふりしてもとの鞘《さや》におさめていたのに、その夜の現像室は、阿鼻叫喚《あびきょうかん》、種板みごとに黒一色、無智の犯人たちまちばれて、その日より以後、あなたは私に、胴乱もたせては呉れなかった。わが既往《きおう》の失敗とがめず、もいちど信じてだまって持たせて呉れたなら、私いのち投げてもプレート守ったにちがいない。また、あの頃に、かくれんぼ、あなたは鬼、みんな隠れてしまうのを待つ間ひとり西洋間のソファに埋まり、つまらなそうに雑誌読んでいたゆえ、同じように、かくれんぼつまらない思いの私、かくれなければならぬ番の当の私、ところもあろうに、あなたのソファのかげにかくれた。いいよう、と遠く弟の声して、あなたは雑誌もったまま立っていって捜しに出かけた。知っている? わすれているだろうな。すぐに、みんな捜し
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