たらよいやら。
 僕こそ、渾沌と自尊心とのかたまりでなかつたらうか。この小説も、ただそれだけのものでなかつたらうか。ああ、なぜ僕はすべてに斷定をいそぐのだ。すべての思念にまとまりをつけなければ生きて行けない、そんなけちな根性をいつたい誰から教はつた?
 書かうか。青松園の最後の朝を書かう。なるやうにしかならぬのだ。
 眞野は裏山へ景色を見に葉藏を誘つた。
「とても景色がいいんですのよ。いまならきつと富士が見えます。」
 葉藏はまつくろい羊毛の襟卷を首に纏ひ、眞野は看護服のうへに松葉の模樣のある羽織を着込み、赤い毛絲のシヨオルを顏がうづまるほどぐるぐる卷いて、いつしよに療養院の裏庭へ下駄はいて出た。庭のすぐ北方には、赭土のたかい崖がそそり立つてゐて、それへせまい鐵の梯子がいつぽんかかつてゐるのであつた。眞野がさきに、その梯子をすばしこい足どりでするするのぼつた。
 裏山には枯草が深くしげつてゐて、霜がいちめんにおりてゐた。
 眞野は兩手の指先へ白い息を吐きかけて温めつつ、はしるやうにして山路をのぼつていつた。山路はゆるい傾斜をもつてくねくねと曲つてゐた。葉藏も、霜を踏み踏みそのあとを追つ
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