救ひたかつた。いや、このバイロンに化け損ねた一匹の泥狐を許してもらひたかつた。それだけが苦しいなかの、ひそかな祈願であつた。しかしこの日の近づくにつれ、僕は前にもまして荒涼たる氣配のふたたび葉藏を、僕をしづかに襲うて來たのを覺えるのだ。この小説は失敗である。なんの飛躍もない、なんの解脱もない。僕はスタイルをあまり氣にしすぎたやうである。そのためにこの小説は下品にさへなつてゐる。たくさんの言はでものことを述べた。しかも、もつと重要なことがらをたくさん言ひ落したやうな氣がする。これはきざな言ひかたであるが、僕が長生きして、幾年かのちにこの小説を手に取るやうなことでもあるならば、僕はどんなにみじめだらう。おそらくは一頁も讀まぬうちに僕は堪へがたい自己嫌惡にをののいて、卷を伏せるにきまつてゐる。いまでさへ、僕は、まへを讀みかへす氣力がないのだ。ああ、作家は、おのれのすがたをむき出しにしてはいけない。それは作家の敗北である。美しい感情を以て、人は、惡い文學を作る。僕は三度この言葉を繰りかへす。そして、承認を與へよう。
 僕は文學を知らぬ。もいちど始めから、やり直さうか。君、どこから手をつけていつ
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