ゐても、やつぱり女だな。」
「變つてるよ。」飛騨は、せまい病室をのしのし歩きまはつた。「はじめから僕、變つてると思つてゐたんだよ。をかしいなあ。泣いて飛び出さうとするんだから、おどろいたよ。まさか婦長のとこへ行つたんぢやないだらうな。」
「そんなことはないよ。」葉藏は平氣なおももちを裝つてさう答へ、落書した木炭紙を小菅のはうへ投げてやつた。
「婦長の肖像畫か。」小菅はげらげら笑ひこけた。
「どれどれ。」飛騨も立つたままで木炭紙を覗きこんだ。「女怪だね。けつさくだよ。これあ。似てゐるのか。」
「そつくりだ。いちど院長について、この病室へも來たことがあるんだ。うまいもんだなあ。鉛筆を貸せよ。」小菅は、葉藏から鉛筆を借りて、木炭紙へ書き加へた。「これへかう角を生やすのだ。いよいよ似て來たな。婦長室のドアへ貼つてやらうか。」
「そとへ散歩に出てみようよ。」葉藏はベツドから降りて脊のびした。脊のびしながら、こつそり呟いてみた。「ポンチ畫の大家。」
ポンチ畫の大家。そろそろ僕も厭きて來た。これは通俗小説でなからうか。ともすれば硬直したがる僕の神經に對しても、また、おそらくはおなじやうな諸君の神
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