ぶせるやうにして言つた。「畫は、まだるつこくていかんな。彫刻だつてさうだよ。」
 飛騨は長い髮を掻きあげて、たやすく同意した。「そんな氣持ちも判るな。」
「できれば、詩を書きたいのだ。詩は正直だからな。」
「うん。詩も、いいよ。」
「しかし、やつぱりつまらないかな。」なんでもかでもつまらなくしてやらうと思つた。「僕にいちばんむくのはパトロンになることかも知れない。金をまうけて、飛騨みたいなよい藝術家をたくさん集めて、可愛がつてやるのだ。それは、どうだらう。藝術なんて、恥かしくなつた。」やはり頬杖ついて海を眺めながら、さう言ひ終へて、おのれの言葉の反應をしづかに待つた。
「わるくないよ。それも立派な生活だと思ふな。そんなひともなくちやいけないね。じつさい。」言ひながら飛騨は、よろめいてゐた。なにひとつ反駁できぬおのれが、さすがに幇間じみてゐるやうに思はれて、いやであつた。彼の所謂、藝術家としての誇りは、やうやくここまで彼を高めたわけかも知れない。飛騨はひそかに身構へた。このつぎの言葉を!
「警察のはうは、どうだつたい。」
 小菅がふいと言ひ出した。あたらずさはらずの答を期待してゐたのであ
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