る。
 飛騨の動搖はその方へはけぐちを見つけた。
「起訴さ。自殺幇助罪といふ奴だ。」言つてから悔いた。ひどすぎたと思つた。「だが、けつきよく、起訴猶豫になるだらうよ。」
 小菅は、それまでソフアに寢そべつてゐたのをむつくり起きあがつて、手をぴしやつと拍つた。「やつかいなことになつたぞ。」茶化してしまはうと思つたのである。しかし駄目であつた。
 葉藏はからだを大きく捻つて、仰向になつた。
 ひと一人を殺したあとらしくもなく、彼等の態度があまりにのんきすぎると忿懣を感じてゐたらしい諸君は、ここにいたつてはじめて快哉を叫ぶだらう。ざまを見ろと。しかし、それは酷である。なんの、のんきなことがあるものか。つねに絶望のとなりにゐて、傷つき易い道化の華を風にもあてずつくつてゐるこのもの悲しさを君が判つて呉れたならば!
 飛騨はおのれの一言の效果におろおろして、葉藏の足を蒲團のうへから輕く叩いた。
「だいぢやうぶだよ。だいぢやうぶだよ。」
 小菅は、またソフアに寢ころんだ。
「自殺幇助罪か。」なほも、つとめてはしやぐのである。「そんな法律もあつたかなあ。」
 葉藏は足をひつこめながら言つた。
「あるさ
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