が小菅ひとりであるし、わざわざ隣りの病室を借りるにも及ぶまいと、みんなで相談して、小菅もおなじ病室に寢ることにきめた。小菅は葉藏とならんでソフアに寢た。緑色の天鵞絨が張られたそのソフアには、仕掛がされてあつて、あやしげながらベツドにもなるのであつた。眞野は毎晩それに寢てゐた。けふはその寢床を小菅に奪はれたので病院の事務室から薄縁を借り、それを部屋の西北の隅に敷いた。そこはちやうど葉藏の足の眞下あたりであつた。それから眞野は、どこから見つけて來たものか、二枚折のひくい屏風でもつてそのつつましい寢所をかこつたのである。
「用心ぶかい。」小菅は寢ながら、その古ぼけた屏風を見て、ひとりでくすくす笑つた。「秋の七草が畫れてあるよ。」
 眞野は、葉藏の頭のうへの電燈を風呂敷で包んで暗くしてから、おやすみなさいを二人に言ひ、屏風のかげにかくれた。
 葉藏は寢ぐるしい思ひをしてゐた。
「寒いな。」ベツドのうへで輾轉した。
「うん。」小菅も口をとがらせて合槌うつた。「醉がさめちやつた。」
 眞野は輕くせきをした。「なにかお掛けいたしませうか。」
 葉藏は眼をつむつて答へた。
「僕か? いいよ。寢ぐるしい
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