恥
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)恥《はじ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)夫婦|喧嘩《げんか》、
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菊子さん。恥《はじ》をかいちゃったわよ。ひどい恥をかきました。顔から火が出る、などの形容はなまぬるい。草原をころげ廻って、わあっと叫びたい、と言っても未だ足りない。サムエル後書にありました。「タマル、灰を其《そ》の首《こうべ》に蒙《かむ》り、着たる振袖《ふりそで》を裂き、手を首《こうべ》にのせて、呼《よば》わりつつ去《さり》ゆけり」可愛そうな妹タマル。わかい女は、恥ずかしくてどうにもならなくなった時には、本当に頭から灰でもかぶって泣いてみたい気持になるわねえ。タマルの気持がわかります。
菊子さん。やっぱり、あなたのおっしゃったとおりだったわ。小説家なんて、人の屑《くず》よ。いいえ、鬼です。ひどいんです。私は、大恥かいちゃった。菊子さん。私は今まであなたに秘密にしていたけれど、小説家の戸田さんに、こっそり手紙を出していたのよ。そうしてとうとう一度お目にかかって大恥かいてしまいました。つまらない。
はじめから、ぜん
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