カシさに笑ひこけてしまつた。その瞬間その大きな気味の悪い星が不吉を予言するかのやうにスーツと音もなく青白い長い尾を引きながら暗の中に消えてしまつたのは誰も知らなかつたことである。謝源と郭光はそれから一しきり、いくさの手柄話に花を咲かせて居た。
その時一人の家来があはたゞしく王の前に参り「たゞ今二人の蘭人がこれに見えて、王に戦勝の祝の品を持つて来たと申して居ます。いかゞとりはからひませうか」と言つた。謝源はフト郭光との話を止めて上機嫌で「アヽそうか、すぐこれへ」と口ばやに言つた。家来は「承知致しました」と急いで、そこを去つた。
謝源には二人の蘭人とは誰と誰であるかゞわかつて居た。八年前に謝源がこの沖合で難破した蘭人の二人を家来の救ふて来たのを、世話してやつたことがあつた。キツトその蘭人があれから先づ己の国に帰つて又日本に来る途中で自分の戦勝を聞き、取り敢へず祝の品を持つて来たのだらうと思つた。
彼はその蘭人の恩を忘れぬ美しい心が又となく嬉しく思はれた。果してあの蘭人であつた。二人はあれからは大分老いて見えた。丈の高い方はもう頭に白髪が十分まじつて居た。
肥えて居た方はことに衰へて
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