、あのはち切れさうだつた血色のいゝ皮膚が、今はもうタブタブして居て、ガサガサした感じさへ与へて居た。
 二人はめいめい先年の絶大な恩を受けたこと、及びこの度の戦勝の祝をくどくどしく申し述べた。謝源は絶えずニコ/\してそれを聞いて居た。殊に両人ともまだ琉球のことばを忘れて居ないで、たやすく思ふまゝに言ふことが出来て居たといふことは謝源をムシヤウに嬉しがらせた。謝源は二人の言葉の終るのを待ち遠しそうにして「アヽよし/\両人とも大儀であつたナ」と言つた。彼の得意はもうその絶頂に達して居た。異人種から戦勝の祝のことばを述べられる。恐らくそれは日本の内地にでさへもなかつたことだつたらう。
 もう五十の齢にも及ばうとして居る謝源も前後を忘れて「アヽ愉快だ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」と叫びたくなつた程であつた。蘭人はやがて紫の布に包んだ祝の品を恭しく差し出した。郭光はこれを介して謝源に渡した。偉いと言はれてもいくらか原始的な人種である琉球人たる謝源はその品を受け取つてしまつてからは、それを見たくてたまらなかつた。それは長い軸物であつた。一体なんであらうと彼は考へた。南蛮の……兵法……そうでなけ
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