。フイと首を傾けて外を眺めた。暗い晩であつた。まだ月が出るには間があるのか、たゞまつくらで空と大地との区別すらつかない程であつた。彼はその空を見て居るうちにもう、その空までも自分が征服してしまつたやうな気がした。勝つた者の喜び※[#感嘆符二つ、1−8−75] 彼はそれを十二分に味つて居た。
 ジーと暗い空の方を眺めて居た。彼はフト空のスグ低い所に気味の悪い程大きな星がまばたきもせず黙つて輝いて居るのを見た。
「大きい星だナ」彼は何気なくつぶやいた。郭光はその王の独りごとを耳に聞きはさんだ。「どれ、どれ、どこにその星が……」郭光はおかしみたつぷりにそう言つた。謝源はそれを聞いて微笑みながら、だまつてその星のある方を指さした。郭光は「ウム、ななーる程これア大きい星ぢや。何といふ星ぢやらう。うらめしそうに、わしの方を見て居りますナ。王、あれア石垣の、やつらがくやしがつてあの様ににらめて居るので御座らう」ヒヨウキン者の郭光は妙な口調でこういつた。そしてその星に向つて、「ヤイ/\いくさに負けて、くやしいだらう」とやゝ高声に変なフシをつけて叫んだ。謝源も、これを聞いた家来の一部のものも、あまりのオ
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