誰
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)弟子《でし》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)徹頭徹尾|誤謬《ごびゅう》であった
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)新派悲劇のせりふ[#「せりふ」に傍点]の如し、
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イエス其《そ》の弟子《でし》たちとピリポ・カイザリヤの村々に出《い》でゆき、途《みち》にて弟子たちに問ひて言ひたまふ「人々は我《われ》を誰と言ふか」答へて言ふ「バプテスマのヨハネ、或人《あるひと》はエリヤ、或人は預言者の一人」また問ひ給《たま》ふ「なんぢらは我を誰と言ふか」ペテロ答へて言ふ「なんぢはキリスト、神の子なり」(マルコ八章二七)
たいへん危いところである。イエスは其の苦悩の果に、自己を見失い、不安のあまり無智文盲《むちもんもう》の弟子たちに向い「私は誰です」という異状な質問を発しているのである。無智文盲の弟子たちの答一つに頼ろうとしているのである。けれども、ペテロは信じていた。愚直に信じていた。イエスが神の子である事を信じていた。だから平気で答えた。イエスは、弟子に教えられ、いよい
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