、古き蛇、等である。以下は日本に於ける唯一の信ずべき神学者、塚本虎二氏の説であるが、「名称に依っても、ほぼ推察できるように、新約のサタンは或る意味に於いて神と対立している。即ち一つの王国をもって之《これ》を支配し、神と同じく召使たちをもっている。悪鬼どもが彼の手下である。その国が何処《どこ》にあるかは明瞭でない。天と地との中間(エペソ二・二)のようでもあり、天の処《ところ》(同六・十二)という場所か、または、地の底(黙示九・十一、二〇・一以下)らしくもある。とにかく彼は此の地上を支配し、出来る限りの悪を人に加えようとしている。彼は人を支配し、人は生れながらにして彼の権力の下にある。この故に『この世の君』であり、『この世の神』であって、彼は国々の凡《すべ》ての権威と栄華とをもっている。」
 ここに於いて、かの落第生伊村君の説は、完膚《かんぷ》無《な》き迄《まで》に論破せられたわけである。伊村説は、徹頭徹尾|誤謬《ごびゅう》であったという事が証明せられた。ウソであったのである。私は、サタンでなかったのである。へんな言いかたであるが、私は、サタンほど偉くはない。この世の君であり、この世の神で
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