奥羽山脈の支脈の梵珠《ぼんじゆ》山脈である。この山脈は津軽半島の根元《ねもと》から起つてまつすぐに北進して半島の突端の竜飛岬まで走つて海にころげ落ちる。二百メートルから三、四百メートルくらゐの低い山々が並んで、観瀾山からほぼまつすぐ西に青く聳えてゐる大倉岳は、この山脈に於いて増川岳などと共に最高の山の一つなのであるが、それとて、七百メートルあるかないかくらゐのものなのである。けれども、山高きが故に貴からず、樹木あるが故に貴し、とか、いやに興覚めなハツキリした事を断言してはばからぬ実利主義者もあるのだから、津軽の人たちは、敢へてその山脈の低きを恥ぢる必要もあるまい。この山脈は、全国有数の扁柏《ひば》の産地である。その古い伝統を誇つてよい津軽の産物は、扁柏である。林檎なんかぢやないんだ。林檎なんてのは、明治初年にアメリカ人から種をもらつて試植し、それから明治二十年代に到つてフランスの宣教師からフランス流の剪定法を教はつて、俄然、成績を挙げ、それから地方の人たちもこの林檎栽培にむきになりはじめて、青森名産として全国に知られたのは、大正にはひつてからの事で、まさか、東京の雷おこし、桑名の焼はま
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