全く同様である。蟹田はまた、頗る山菜にめぐまれてゐるところのやうである。蟹田は海岸の町ではあるが、また、平野もあれば、山もある。津軽半島の東海岸は、山がすぐ海岸に迫つてゐるので、平野は乏しく、山の斜面に田や畑を開墾してゐるところも少くない状態なので、山を越えて津軽半島西部の広い津軽平野に住んでゐる人たちは、この外ヶ浜地方を、カゲ(山の陰《かげ》の意)と呼んで、多少、あはれんでゐる傾向が無いわけでもないやうに思はれる。けれども、この蟹田地方セけは、決して西部に劣らぬ見事な沃野を持つてゐるのだ。西部の人たちに、あはれまれてゐると知つたら、蟹田の人たちは、くすぐつたく思ふだらう。蟹田地方には、蟹田川といふ水量ゆたかな温和な川がゆるゆると流れてゐて、その流域に田畑が広く展開してゐるのである。ただこの地方には、東風も、西風も強く当るので不作のとしも少くないやうであるが、しかし、西部の人たちが想像してゐるほど、土地が痩せてはゐないのである。観瀾山から見下すと、水量たつぷりの蟹田川が長蛇の如くうねつて、その両側に一番打のすんだ水田が落ちつき払つて控へてゐて、ゆたかな、たのもしい景観をなしてゐる。山は
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