たち津軽人の窮極の魂の拠りどころでなければならぬ筈なのに、どうも、それにしては、私のこれまでの説明だけでは、この城下まちの性格が、まだまだあいまいである。桜花に包まれた天守閣は、何も弘前城に限つた事ではない。日本全国たいていのお城は桜花に包まれてゐるではないか。その桜花に包まれた天守閣が傍に控へてゐるからとて、大鰐温泉が津軽の匂ひを保守できるとは、きまつてゐないではないか。弘前城が控へてゐる限り、大鰐温泉は都会の残瀝をすすり悪酔するなどの事はあるまい、とついさつき、ばかに調子づいて書いた筈だが、いろいろ考へて、考へつめて行くと、それもただ、作者の美文調のだらしない感傷にすぎないやうな気がして来て、何もかも、たよりにならず、心細くなるばかりである。いつたいこの城下まちは、だらしないのだ。旧藩主の代々のお城がありながら、県庁を他の新興のまちに奪はれてゐる。日本全国、たいていの県庁所在地は、旧藩の城下まちである。青森県の県庁を、弘前市でなく、青森市に持つて行かざるを得なかつたところに、青森県の不幸があつたとさへ私は思つてゐる。私は決して青森市を特にきらつてゐるわけではない。新興のまちの繁栄を
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