ら深浦の伝説か何か聞かうかと思つた。
「深浦の名所は何です。」
「観音さんへおまゐりなさいましたか。」
「観音さん? あ、円覚寺の事を、観音さんと言ふのか。さう。」このをばさんから、何か古めかしい話を聞く事が出来るかも知れないと思つた。しかるに、その座敷に、ぶつてり太つた若い女があらはれて、妙にきざな洒落など飛ばし、私は、いやで仕様が無かつたので、男子すべからく率直たるべしと思ひ、
「君、お願ひだから下へ行つてくれないか。」と言つた。私は読者に忠告する。男子は料理屋へ行つて率直な言ひ方をしてはいけない。私は、ひどいめに逢つた。その若い女中が、ふくれて立ち上ると、をばさんも一緒に立ち上り、二人ともゐなくなつてしまつた。ひとりが部屋から追ひ出されたのに、もうひとりが黙つて坐つてゐるなどは、朋輩の仁義からいつても義理が悪くて出来ないものらしい。私はその広い部屋でひとりでお酒を飲み、深浦港の燈台の灯を眺め、さらに大いに旅愁を深めたばかりで宿へ帰つた。翌る朝、私がわびしい気持で朝ごはんを食べてゐたら、主人がお銚子と、小さいお皿を持つて来て、
「あなたは、津島さんでせう。」と言つた。
「ええ。」私
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