ぬ性格だつたので、与へられた松毬をいちどにどつと惜しげも無く竈にくべたところが、その火で楽にごはんが出来、さうして、あとに燠《おき》が残つたので、その燠でおみおつけも出来た。「そんな話、知つてる? ね、飲まうよ。竜飛へ持つて行くんだつて、ゆうべ、もう一つの水筒のお酒、残して置いたらう? あれ、飲まうよ。ケチケチしてたつて仕様が無いよ。こだはらずに、いちどにどつとやらうぢやないか。さうすると、あとに燠が残るかも知れない。いや、残らなくてもいい。竜飛へ行つたら、また、何とかなるさ。何も竜飛でお酒を飲まなくたつて、いいぢやないか。死ぬわけぢやあるまいし。お酒を飲まずに寝て、静かに、来しかた行く末を考へるのも、わるくないものだよ。」
「わかつた、わかつた。」N君は、がばと起きて、「万事、姉娘式で行かう。いちどにどつと、やつてしまはう。」
 私たちは起きて囲炉裏をかこみ、鉄瓶にお燗をして、雨のはれるのを待ちながら、残りのお酒を全部、飲んでしまつた。
 お昼頃、雨がはれた。私たちは、おそい朝飯をたべ、出発の身仕度をした。うすら寒い曇天である。宿の前で、Mさんとわかれ、N君と私は北に向つて発足した。
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