意外わが贈物、浮ぶ『西太后の船。』
そもそも北京《ペキン》郊外万寿山々麓の昆明湖、その湖の西北隅、意外や竜が現われた。とし古く住む竜にして、というのは嘘。
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おじさんが、いま牢《ろう》へはいっているんだったら、いいな。そうすると私は、毎日、大得意で、ニュウスをお送りできるのだけれど。新聞を読むと、ちゃんと書いて在ることなのに、なぜみんな、あんなに得々と、欧洲の状勢は、なんて自分ひとり知っているような顔をしているのでしょう。可笑しいと思います。
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三、ジャピイは、この二、三日あまり元気が無いのです。日中は、ずっとウツラウツラしています。このごろ、急に老けた顔つきになりました。もうきっと、おじいさんになってしまったのでしょうね。
四、サビガリ君は、白衣の兵隊さんにお辞儀をなさいますか? あたしは、いつも『今度こそお辞儀をしましょう。』と決心しながら、どうしても、できませんでした。それが、此の間、上野の美術館に行く途中、向うから白衣の兵隊さんが歩いていらっしゃいました。あたし、こっそりあたりを見まわして、誰も居りませんでしたので、ここぞと、ちゃんとお辞儀をしましたの。そしたら、兵隊さんも、ていねいにお辞儀をして下さいました。あたしは、涙が出そうなくらい、うれしくって、足がピョンピョンはね上がって、とても歩きにくくなりました。ニュウスは、これでおしまい。
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私は、このごろ、とても気取って居ります。おじさんが私のことを、上手に書いて下さって、私は、日本全国に知られているのですものね。あたしは、寂しいのよ。笑っては、いや。ほんとうよ。私は、だめな子かも知れません。朝、目がさめて、きょうこそは、しっかりした意志を持ちつづけて悔いなく暮そうと、誓ってお床から起き出すのですけど、朝御飯まで、とっても、もちません。それまでは、それはそれは、ひどい緊張で物事に当りますの。シャッチョコ張って、御不浄の戸を閉めるのにも気をつけて、口をきゅっと引きしめ、伏眼で廊下を歩き、郵便屋さんにもいい笑い声を使ってしとやかに応対するのですけれど、あたしは、やっぱり、だめなの。朝御飯のおいしそうな食卓を見ると、もうすっかりあの固い誓いが、ふっとんでしまっているのです。そして、ペチャペチャおしゃべりして、げびて
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