てないんだし、それに、叔父さんだって、いつもお母さんを尊敬していらっしゃるのだから、大丈夫よ。お母さん、叔父さんをお叱りになること無いと思うわ。ただ、あたしが少し恥ずかしいの。どうしてだか、自分でもよくわかりませんわ。あたしは、このごろずっと、お母さんに変に恥ずかしがってばかりいるの。お母さんだけじゃない。みんなに。もっと、平気になりたいのですけれど。
つまらないわね、そんなこと。ふきとばせ、シャボン玉。きのうは、お寺さんと買い物にまいりました。お寺さんの買ったものは、白い便箋《びんせん》と、口紅と、(口紅は、お寺さんに、とてもよく合う色でした。)それから、時計の皮でした。あたしは、お金入れと、(とてもとても気に入ったお金いれよ。焦茶《こげちゃ》と赤の貝の模様です。だめかしら。あたし、趣味が低いのね。でも、口金の所と貝の口の所が、金色で細くいろどられて、捨てたものでもないの。あたしこれを買う時に、お金入れを顔に近づけてみましたの。そしたら、口金にあたしの顔が小さく丸く映っていて、なかなか可愛く見えました。ですから、これからあたしは、このお金いれを開ける時には、他の人がお金入れを開ける時とは、ちがった心構えをしなければならなくなりました。開ける時には、必ずちらと映してみようと思っています。)それから口紅も買ったんだけれど、こんな話、やっぱり、つまらない? どうしたのでしょうね。おじさんにも、わるいところがあるのよ。あたし、ときどき、そう思って淋しくなります。お酒は、しかたが無いけれども、煙草は、もすこしつつしんで下さい。ふつうじゃ無いわ。デカダンめ。
こんどは、いいお話を聞かせてあげます。なんだか、みんな自信が無くなっちゃった。犬の話をしようと思ったんだけど、おじさんと私とでは、犬に就いての趣味は全然、反対なのだから、それを考えると、もう言いたくなくなりました。ジャピイ、可愛いのよ。いま散歩から帰って来たところらしく、窓の下で、ツウアアなんて、あくびの様な甘え声をたてています。あすは、火曜日。火曜日っていう字は、意地悪そうできらいです。
ニュウスをお知らせしましょうね。
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一、白蘭の和平調停を、英仏|婉曲《えんきょく》に拒否す。
そもそもベルギイ皇帝レオポオル三世は、そのあとは、けさの新聞を読んで下さい。
二、廃船は
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