しかし、いまではたしかに一流品に違いなかったのである。値段も大いに高いけれども、しかし、それよりも、之《これ》を求める手蔓《てづる》が、たいへんだったのである。お金さえ出せば買えるというものでは無かったのである。私はこのウイスキイを、かなり前にやっと一ダアスゆずってもらい、そのために破産したけれども後悔はせず、ちびちび嘗《な》めて楽しみ、お酒の好きな作家の井伏《いぶせ》さんなんかやって来たら飲んでもらおうとかなり大事にしていたのである。しかし、だんだん無くなって、その時には、押入れに、二本半しか残っていなかったのである。
 飲ませろ、と言われた時には、あいにく日本酒も何も無かったので、その残り少なの秘蔵のウイスキイを出したのであるが、しかし、こんなにがぶがぶ鯨飲されるとは思っていなかった。甚だケチ臭い愚痴を言うようだが、(いや、はっきり言おう。私はこのウイスキイに関しては、ケチである。惜しいのである)まるで何か当然の事のように、大威張りでぐいぐい飲まれては、さすがに、いまいましい気が起らざるを得なかったのである。
 それにまた、彼の談話たるや、すこしも私の共感をそそってはくれないのであ
前へ 次へ
全32ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング