彼はぐっと一息に飲みほし、それからちょっちょっと舌打ちをして、
「まむし焼酎《しょうちゅう》に似ている」と言った。
私はさらにまた注いでやりながら、
「でも、あんまりぐいぐいやると、あとで一時に酔いが出て来て、苦しくなるよ」
「へえ? おかど違いでしょう。俺は東京でサントリイを二本あけた事だってあるのだ。このウイスキイは、そうだな、六〇パーセントくらいかな? まあ、普通だ。たいして強くない」と言って、またぐいと飲みほす。なんの風情《ふぜい》も無い。
そうしてこんどは、彼が私に注いでくれて、それからまた彼自身の茶碗にもなみなみと一ぱい注いで、
「もう無い」と言った。
「ああ、そう」と私は上品なる社交家の如く、心得顔に気軽そうに立ち、またもや押入れからウイスキイを一本取り出し、栓をあける。
彼は平然と首肯して、また飲む。
さすがに私も、少しいまいましくなって来た。私には幼少の頃から浪費の悪癖があり、ものを惜しむという感覚は、(決して自慢にならぬ事だが)普通の人に較べてやや鈍いように思っている。けれども、そのウイスキイは、謂《い》わば私の秘蔵のものであったのである。昔なら三流品でも、
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