まいに微笑して、かれの話を傾聴していた。
「ところで、お前に一つ相談があるんだがな。クラス会だ。どうだ、いやか。大いに飲もうじゃないか。出席者が十人として、酒を二斗、これは俺が集める」
「それは悪くないけど、二斗はすこし多くないか」
「いや、多くない。ひとりに二升無くては面白くない」
「しかし、二斗なんてお酒が集まるか?」
「集まらない、かも知れん。わからないが、やってみる。心配するな。しかし、いくら田舎だってこの頃は酒も安くはないんだから、お前にそこは頼む」
 私は心得顔で立ち上り、奥の部屋へ行って大きい紙幣を五枚持って来て、
「それじゃ、さきにこれだけあずかって置いてくれ。あとはまた、あとで」
「待ってくれ」とその紙幣を私に押し戻し、「それは違う。きょうは俺は金をもらいに来たのではない。ただ相談に来たのだ。お前の意見を聞きに来たのだ。どうせそれあ、お前からは、千円くらいは出してもらわないといけない事になるだろうが、しかし、きょうは相談かたがた、昔の親友の顔を見たくて来たのだ。まあ、いいから、俺にまかせて、そんな金なんか、ひっこめてくれ」
「そうか」私は、紙幣を上衣のポケットに収めた
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