よ。そんなに、この俺を見下げ果ててもらっては困るよ。お前の家だって、先祖をただせば油売りだったんだ。知っているか。俺は、俺の家の婆から聞いた。油一合買ってくれた人には、飴玉一つ景品としてやったんだ。それが当った。また川向うの斎藤だって、いまこそあんな大地主で威張りかえっているけれども、三代前には、川に流れている柴《しば》を拾い、それを削って串《くし》を作り、川からとった雑魚《ざこ》をその串にさして焼いて、一文とか二文とかで売ってもうけたものなんだ。また、大池さんの家なんか、路傍《みちばた》に桶《おけ》を並べて路行く人に小便をさせて、その小便が桶一ぱいになると、それを百姓たちに売ってもうけたのが、いまの財産のはじまりだ。金持ちなんて、もとをただせば、皆こんなものだ。俺の一族は、いいか、この地方では一ばん古い家柄という事になっているんだ。何でも、祖先は、京都の人で」と言いかけて、さすがに、てれくさそうに、ふふんと笑い、「婆の話だから、あてにはならんが、とにかくちゃんとした系図は在るのだ」
 私はまじめに、
「それでは、やはり、公卿《くげ》の出かも知れない」と言って、彼の虚栄心を満足させてや
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