のを食べると、酔いがさめて、また大いに飲めるようになるよ」
私は彼がこの調子で、ぐいぐいウイスキイを飲み、いまに大酔いを発し、乱暴を働かないまでも、前後不覚になっては、始末に困ると思い、少し彼を落ちつかせる目的を以て、梨の皮などをむいてすすめたのである。
しかし、彼は酔いを覚ます事は好まない様子で、その水菓子には眼もくれず、ウイスキイの茶呑茶碗にだけ手をかける。
「俺は政治はきらいだ」と突如、話題は政治に飛ぶ。「われわれ百姓は、政治なんて何も知らなくていいのだ。実際の俺たちの暮しに、少しでも得になる事をしてくれたら、そっちへつく。それでいいだろう。現物を眼の前に持って来て、俺たちの手に握らせたら、そっちへつく。それでいいわけではないか。われわれ百姓には野心は無いんだ。受けた恩は、きっと、それだけかえしてやる。それはもう、われわれ百姓の正直なところだ。進歩党も社会党も、どうだっていいんだ。われわれ百姓は田を作り、畑を耕やしていたら、それでいいのだ」
私は、はじめ、なぜ彼が突如としてこんな妙な事を言い出したのか、わけがわからなかった。けれども、次の言葉で、真意が判明し苦笑した。
「し
前へ
次へ
全32ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング