の部屋に閉じこもり、時たまこの地方の何々文化会とか、何々同志会とかいうところから講演しに来い、または、座談会に出席せよなどと言われる事があっても、「他にもっと適当な講師がたくさんいる筈《はず》です」と答えて断り、こっそりひとりで寝酒など飲んで寝る、というやや贋隠者《にせいんじゃ》のあけくれにも似たる生活をしているのだけれども、それ以前の十五年間の東京生活に於いては、最下等の居酒屋に出入りして最下等の酒を飲み、所謂《いわゆる》最下等の人物たちと語り合っていたものであって、たいていの無頼漢には驚かなくなっているのである。しかし、あの男には呆《あき》れた。とにかく、ずば抜けていやがった。
九月のはじめ、私は昼食をすませて、母屋《おもや》の常居《じょい》という部屋で、ひとりぼんやり煙草を吸っていたら、野良着姿の大きな親爺《おやじ》が玄関のたたきにのっそり立って、
「やあ」と言った。
それがすなわち、問題の「親友」であったのである。
(私はこの手記に於いて、ひとりの農夫の姿を描き、かれの嫌悪すべき性格を世人に披露《ひろう》し、以て階級闘争に於ける所謂「反動勢力」に応援せんとする意図などは、全
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