自分を暗示しているような気がしてならない。こんな気分の時には、きまって何か失敗が起るのだ。師範の寄宿舎で焚火《たきび》をして叱られた時の事が、ふいと思い出されて、顔をしかめてスリッパをはいて、背戸の井戸端に出た。だるい。頭が重い。私は首筋を平手で叩いてみた。屋外は、凄《すご》いどしゃ降りだ。菅笠《すげがさ》をかぶって洗面器をとりに風呂場へ行った。
「先生お早うす。」
 学校に近い部落の児が二人、井戸端で足を洗っていた。
 二時間目の授業を終えて、職員室で湯を呑んで、ふと窓の外を見たら、ひどいあらし[#「あらし」に傍点]の中を黒合羽着た郵便配達が自転車でよろよろ難儀しながらやって来るのが見えた。私は、すぐに受け取りに出た。私の受け取ったものは、思いがけない人からの返書でした。先生、その時、私は、随分月並な言葉だけれど、(中略)
 本当に、ありがとうございました。私は常に後悔しています。理由なき不遜《ふそん》の態度。私はいつでもこれあるが為《ため》に、第一印象が悪いのです。いけないことだ。知りつつも、ついうっかりして再び繰返します。
 校長にも、お葉書を見せました。校長は言いました。「ほん
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