に。ダダイズムとは結局、何を意味するか。お願いします。草田舎の国民学校訓導より。――
 私は返事を出した。
 ――拝復。貴翰《きかん》拝読いたしました。ひとにものを尋ねる時には、も少していねいな文章を書く事に致しましょう。小国民の教育をなさっている人が、これでは、いけないと思いました。
 御質問に、まじめにお答え致します。私はいままで、ダダイズムを自称した事は一度もありませんでした。私は自分を、下手な作家だと思っています。なんとかして自分の胸の思いをわかってもらいたくて、さまざまのスタイルを試みているのですが、成功しているとも思えません。不器用な努力です。私は、ふざけていません。不一。――
 その国民学校の先生が、私の家へ呶鳴り込んで来てもいいと覚悟して書いたのであるが、四五日経ってから、次のような、やや長い手紙が来た。
 ――十一月二十八日。昨夜の疲労で今朝は七時の時報を聞いても仲々起きられなかった。範画教材として描いた笹の墨絵を見ながら、入営(×月×日)のこと、文学のこと、花籠のこと等、漠然と考えはじめた。××県地図と笹の絵が、白い宿直室の壁に、何かさむざむとへばりついているのが、
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