りました。苦笑なさっては、いけません。無邪気に信じている者だけが、のんきであります。私は文学を、やめません。私は信じて成功するのです。御安心下さい。
このごろ私は、毎朝かならず鬚《ひげ》を剃《そ》る。歯も綺麗に磨く。足の爪も、手の爪も、ちゃんと切っている。毎日、風呂へはいって、髪を洗い、耳の中も、よく掃除して置く。鼻毛なんかは、一分も伸ばさぬ。眼の少し疲れた時には、眼薬を一滴、眼の中に落して、潤いを持たせる。
純白のさらし木綿を一反、腹から胸にかけてきりりと巻いている。いつでも、純白である。パンツも純白のキャラコである。之《これ》も、いつでも純白である。そうして夜は、ひとり、純白のシイツに眠る。
書斎には、いつでも季節の花が、活き活きと咲いている。けさは水仙を床の間の壺に投げ入れた。ああ、日本は、佳い国だ。パンが無くなっても、酒が足りなくなっても、花だけは、花だけは、どこの花屋さんの店頭を見ても、いっぱい、いっぱい、紅《あか》、黄、白、紫の色を競い咲き驕《おご》っているではないか。この美事さを、日本よ、世界に誇れ!
私はこのごろ、破れたドテラなんか着ていない。朝起きた時から、よ
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