合って、少女は、微笑した。夢のように、美しかった。お嫁に行く、あの夜のつるに酷似していたのである。それまでの、けわしい泥酔が、涼しくほどけていって、私は、たいへん安心して、そうして、また、眠ってしまったらしい。ずいぶん酔っていたのである。御不浄に立ったときのことと、それから、少女の微笑と、二つだけ、それだけは、あとになっても、はっきり思い出すことができるのだけれど、そのほかのことは、さっぱり覚えていないのである。
半分、眠りながら、私は自動車に乗せられ、幸吉兄妹も、私の右と左に乗ったようだ。途中、ぎゃあぎゃあ怪しい鳥の鳴き声を聞いて、
「あれは、なんだ。」
「鷺《さぎ》です。」
そんな会話をしたのを、ぼんやり覚えている。山峡のまちに居るのだな、と酔っていながらも旅愁を感じた。
宿に送りとどけられ、幸吉兄妹に蒲団までひいてもらったのだろう、私は翌る日の正午ちかくまで、投げ捨てられた鱈のように、だらしなく眠った。
「郵便屋さんですよ。玄関まで。」宿の女中に、そう言われて起された。
「書留ですか?」私は、少し寝呆《ねぼ》けていた。
「いいえ、」女中も笑っていた。「ちょっと、お目にかかり
前へ
次へ
全31ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング