も、だめなのである。十六の娘にも、また召使いにも、看破されている。
「お金を、たくさん持って出たじゃないの。」お金の事まで看破されている。
 鞠は、うなずいて、
「容易ならぬ事と存じます。」と、分別顔をして呟いた。
「胸騒ぎがする。」と言って、八重は両袖《りょうそで》で胸を覆《おお》った。
「どのような事が起るかわかりませぬ。見苦しい事の無いように、これからすぐに家の内外《うちと》を綺麗《きれい》に掃除いたしましょう。」と鞠は素早く襷《たすき》をかけた。
 その時、重役の野田武蔵がお供も連れず、平服で忍ぶようにやって来て、
「金内殿は、出かけられましたか。」と八重に小声で尋ねた。
「はい。お金をたくさん持って出かけました。」
 武蔵は苦笑して、
「永い旅になるかも知れぬ。留守中、お困りの事があったら、少しも遠慮なくこの武蔵のところへ相談にいらっしゃい。これは、当座のお小遣い。」と言って、かなりの金子を置いて立ち去る。
 これはいよいよ父の身の上に何か起ったと合点《がてん》して、八重も武士の娘、その夜から懐剣を固く抱いて帯もとかずに丸くなって寝る。
 一方、人魚をさがしに旅立った中堂金内
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