同輩をさげすみ、なりあがり者の娘などはこの青崎の家に迎え容《い》れられぬと言って妻をめとらず道楽|三昧《ざんまい》の月日を送って、ことし四十一歳、このごろは欲しいと言ったって誰《だれ》も娘をやろうとはせぬ有様、みずからの高慢のむくいではあるが、さすがに世の中が面白《おもしろ》くなく、何かにつけて家中の者たちにいや味を言い、身のたけ六尺に近く極度に痩《や》せて、両手の指は筆の軸のように細く長く、落ち窪《くぼ》んだ小さい眼はいやらしく青く光って、鼻は大きな鷲鼻《わしばな》、頬《ほお》はこけて口はへの字型、さながら地獄の青鬼の如き風貌《ふうぼう》をしていて、一家中のきらわれ者、この百右衛門が、武蔵の物語を半分も聞かぬうちに、ふふん、と笑い、のう玄斎《げんさい》、と末座に丸くかしこまっている茶坊主《ちゃぼうず》の玄斎に勝手に話掛け、
「そなたは、どう思うか。こんな馬鹿らしい話を、わざわざ殿へ言上するなんて、ちと不謹慎だとは思わぬか。世に化物なし、不思議なし、猿《さる》の面《つら》は赤し、犬の足は四本にきまっている。人魚だなんて、子供のお伽噺《とぎばなし》ではあるまいし、いいとしをしたお歴々が、
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