似合うかと思いの他、私は肩幅が広いので弁慶のような荒法師の姿で、狼《おおかみ》に衣の例に漏れず、何もかも面白くなく、既に出家していながら、更にまた出家遁世したくなって何が何やらわからず、ただもう死ぬるばかり退屈で、
歎《なげ》きわび世をそむくべき方知らず、吉野の奥も住み憂《う》しと言へり
という歌の心、お察しねがいたく、実はこれとて私の作った歌ではなく、人の物もわが物もこの頃は差別がつかず、出家遁世して以来、ひどく私はすれました。このたびのまことに無分別の遁世、何卒《なにとぞ》あわれと思召し、富籤と観音像と、それから色紙の事お忘れなく、昔の遊び仲間の方々にもよろしくお伝え下され、陽春の頃には、いちど皆様そろって吉野へ御来駕《ごらいが》のほど、ひたすら御待ち申し上げます。頓首《とんしゅ》。
[#地から2字上げ](万《よろづ》の文反古《ふみほうぐ》、巻五の四、桜の吉野山難儀の冬)
底本:「お伽草紙」新潮文庫、新潮社
1972(昭和47)年3月21日発行
1991(平成3)年2月20日40刷改版
1999(平成11)年3月10日56刷
入力:aki
校正:久保あき
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