く楽しみは京の町人、それにつけても先年おろかな無分別を起して出家し、眼夢とやら名を変えて吉野の奥にわけ入った九平太は、いまどうしているかしらんと、さだめし一座の笑草になさった事でございましょうね。いや味《み》を申し上げているのではありません。眼夢、かくの如《ごと》く、いまはつくづく無分別の出家|遁世《とんせい》を後悔いたし、冬の吉野の庵室《あんしつ》に寒さに震えて坐《すわ》って居ります。思えば、私の遁世は、何の意味も無く、ただ親兄弟を泣かせ、そなた様をはじめ友人一同にも、無用の発心《ほっしん》やめ給《たま》え、と繁《しげ》く忠告致されましたが、とめられると尚更《なおさら》、意地になって是が非でも出家遁世しなければならぬような気持ちになり、とめるな、とめるな、浮世がいやになり申した、明日ありと思う心の仇桜《あだざくら》、など馬鹿《ばか》な事を喚《わめ》いて剃髪《ていはつ》してしまいまして、それからすぐそっと鏡を覗《のぞ》いてみたら、私には坊主頭《ぼうずあたま》が少しも似合わず、かねがね私の最も軽蔑《けいべつ》していた横丁の藪医者《やぶいしゃ》の珍斎にそっくりで、しかも私の頭のあちこちに小
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