ましめになるかも知れねえ。」
「連れて行ってくれ。吉州にも逢いたい。」と吉郎兵衛は本音を吐いた。利左は薄気味悪い微笑を頬《ほお》に浮べて、
「見たら、あいそが尽きるぜ。」と言い、蹌踉《そうろう》と居酒屋を出た。
 谷中《やなか》の秋の夕暮は淋しく、江戸とは名ばかり、このあたりは大竹藪《おおたけやぶ》風にざわつき、鶯《うぐいす》ならぬむら雀《すずめ》の初音町《はつねちょう》のはずれ、薄暗くじめじめした露路を通り抜けて、額におしめの滴《しずく》を受け、かぼちゃの蔓《つる》を跨《また》ぎ越え、すえ葉も枯れて生垣《いけがき》に汚くへばりついている朝顔の実一つ一つ取り集めている婆《ばば》の、この種を植えてまた来年のたのしみ、と来年どころか明日知れぬ八十あまりらしい見るかげも無き老躯《ろうく》を忘れて呟いている慾《よく》の深さに、三人は思わず顔を見合せて呆《あき》れ、利左ひとりは、何ともない顔をして小腰をかがめ、婆さま、その朝顔の実を一つ二つわしの家へもわけて下さいまし、何だか曇ってまいりましていけませぬ、など近所のよしみ、有合せのつらいお世辞を言い、陰干しの煙草《たばこ》をゆわえた細縄《ほそなわ
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