っている。でも、おさむらいはこわいな。じいさんばあさんか、女のひとり旅か、にやけた商人か、そんな人たちを選んでおどかしたら、きっと成功するわよ。面白《おもしろ》いじゃないの。あたしは、あの熊の毛皮を頭からかぶって行こう。」無邪気と悪魔とは紙一重である。
「うまくいくといいけど、」と姉は淋《さび》しげに微笑んで、「とにかくそれじゃ、やって見ましょう。あたしたちは、どうでもいいけど、お母さんにお怪我《けが》があっては大変だから、お母さんはお留守番して、あたしたちの獲物をおとなしく待っているのよ。」と母に言い、山育ちの娘も本能として、少しは親を大事にする気持があるらしく、その日から娘二人は、山男の身なりで、おどけ者の妹は鍋墨《なべずみ》で父にそっくりの口髭《くちひげ》など描いて出かけ、町人里人の弱そうな者を捜し出してはおどし、女心はこまかく、懐中の金子《きんす》はもとより、にぎりめし、鼻紙、お守り、火打石、爪楊子《つまようじ》のはてまで一物も余さず奪い、家へ帰って、財布の中の金銀よりは、その財布の縞柄《しまがら》の美しきを喜び、次第にこのいまわしき仕事にはげみが出て来て、もはや心底からのおそ
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