ひらに載せたのは、たしかに十枚の小判。行燈《あんどん》のひかり薄しといえども、この山崎の眼光には狂いはない。」ときっぱり言い放てば、他の六人の客も口々に、たしかに十枚あった筈《はず》と言う。皆々総立ちになり、行燈を持ち廻って部屋の隅々《すみずみ》まで捜したが、小判はどこにも落ちていない。
「この上は、それがし、まっぱだかになって身の潔白を立て申す。」と山崎は老いの一轍《いってつ》、貧の意地、痩《や》せても枯れても武士のはしくれ、あらぬ疑いをこうむるは末代までの恥辱とばかりに憤然、陣羽織を脱いで打ちふるい、さらによれよれの浴衣を脱いで、ふんどし一つになって、投網《とあみ》でも打つような形で大袈裟《おおげさ》に浴衣をふるい、
「おのおのがた、見とどけたか。」と顔を蒼《あお》くして言った。他の客も、そのままではすまされなくなり、次に大竹が立って縫紋の夏羽織をふるい、半襦絆を振って、それから馬乗袴を脱いで、ふんどしをしていない事を暴露し、けれどもにこりともせず、袴をさかさにしてふるって、部屋の雰囲気《ふんいき》が次第に殺気立って物凄《ものすご》くなって来た。次にどてらを尻端折して毛臑丸出しの短
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