いよ増長し、ついに或《あ》る時、蝦夷《えぞ》とはどのような国か、その風景をひとめ見たい、と途方もない事を言い出し、家来たちがなだめると尚更《なおさら》、図に乗って駄々《だだ》をこね、蝦夷を見ぬうちはめしを食わぬと言ってお膳《ぜん》を蹴飛《けと》ばす仕末であった。かねて村丸贔屓の城主荒木は、このたびもまた笑って、よろしい、蝦夷一覧もよかろう、行っておいで、若い頃の長旅は一生の薬、と言って事もなげにその我儘の願いを聞き容《い》れてやった。御供は神崎式部はじめ、家中粒選《かちゅうつぶよ》りの武士三十人。
 そのお供の人数の中に、二人の少年が、御次男のお話相手として差加えられていた。一人は神崎勝太郎とて十五歳、式部の秘蔵のひとり息子で容貌《ようぼう》華麗、立居振舞い神妙の天晴《あっぱ》れ父の名を恥かしめぬ秀才の若武者、いまひとりは式部の同役森岡丹後の三人の男の子の中の末子丹三郎とて十六歳、勝太郎に較《くら》べて何から何まで見劣りして色は白いが眼尻《めじり》は垂れ下り、唇《くちびる》厚く真赤で猪八戒《ちょはっかい》に似ているくせになかなかのおしゃれで、額の面皰《にきび》を気にして毎朝ひそかに軽石
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