であったのう。そちのお蔭《かげ》で国土の重宝はよみがえった。さらに一両の褒美《ほうび》をとらせる。川に落ちた銭は、いたずらに朽ちるばかりであるが、人の手から手へ渡った金は、いつまでも生きて世にとどまりて人のまわり持ち。」としんみり言って、一両の褒美をつかわし、ひらりと馬に乗り、戞々《かつかつ》と立ち去ったが、人足たちは後を見送り、馬鹿な人だと言った。智慧《ちえ》の浅瀬を渡る下々の心には、青砥の深慮が解《げ》しかね、一文惜しみの百知らず、と笑いののしったとは、いつの世も小人はあさましく、救い難《がた》いものである。
 とにかくに、手間賃の三両、思いがけないもうけなれば、今宵《こよい》は一つこれから酒でも飲んで陽気に騒ごうではないかと、下人の意地汚なさ、青砥が倹約のいましめも忘れて、いさみ立ち、浅田はれいの気前のよいところを見せて褒美の一両をあっさりと皆に寄附したので一同いよいよのぼせ上り、生れてはじめての贅沢《ぜいたく》な大宴会をひらいた。
 浅田は何といっても一座の花形である。兄貴のおかげで今宵の極楽、と言われて浅田、よせばよいのに、
「さればさ、あの青砥はとんだ間抜けだ。おれの腹掛け
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