紙は、情のこもったものでした。王子が退屈しているから、話相手になりにやって来てくれ、という勿体《もったい》ない程ごていねいな文面でした。ありがたいお手紙でした。」
 ハム。「嘘《うそ》をつけ。何か他《ほか》の事も、その手紙に書いてあったに違いない。君だけは、嘘をつかない男だと思っていたがねえ。」
 ホレ。「ハムレットさま。ホレーショーは昔ながらの、あなたの親友です。いい加減の事は申しません。それでは、全部、僕がウイッタンバーグで耳にした事を、そのまま申し上げましょう。どうも、ここは寒いですねえ。部屋へ帰りましょう。どうして僕を、こんなところへ引っぱり出して来たのです。顔を見るなり、ものも言わず、こんな寒い真暗なところへ連れて来て、やあ、しばらくだね、とおっしゃるのでは僕だって疑ってみたくなりますよ。」
 ハム。「何を疑うのだ。そうか。だいたい、わかったような気がする。でも、それは、驚いたなあ。」
 ホレ。「おわかりになりましたか? とにかくお部屋へ帰りましょう。僕は、ジャケツを着て来なかったので。」
 ハム。「いや、ここで話してくれ。僕もそれに就いて君に、大いに聞いてもらいたい事がある
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