か。それに対する答案として、私はシルレルの物語詩を一篇、諸君に語りましょう。シルレルはもっと読まなければいけない。
 今のこの時局に於《おい》ては尚更《なおさら》、大いに読まなければいけない。おおらかな、強い意志と、努めて明るい高い希望を持ち続ける為にも、諸君は今こそシルレルを思い出し、これを愛読するがよい。シルレルの詩に、「地球の分配」という面白い一篇がありますが、その大意は、凡《およ》そ次のようなものであります。
「受取れよ、この世界を!」と神の父ゼウスは天上から人間に号令した。
「受取れ、これはお前たちのものだ。お前たちにおれは、これを遺産として、永遠の領地として、贈ってやる。さあ、仲好く分け合うのだ。」その声を聞き、忽《たちま》ち先を争って、手のある限りの者は右往左往、おのれの分前を奪い合った。農民は原野に境界の杙《くい》を打ち、其処《そこ》を耕して田畑となした時、地主がふところ手して出て来て、さて嘯《うそぶ》いた。「その七割は俺《おれ》のものだ。」また、商人は倉庫に満す物貨を集め、長老は貴重な古い葡萄酒《ぶどうしゅ》を漁《あさ》り、公達《きんだち》は緑したたる森のぐるりに早速
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