縄を張り廻らし、そこを己れの楽しい狩猟と逢引《あいびき》の場所とした。市長は巷《ちまた》を分捕《ぶんど》り、漁人は水辺におのが居を定めた。総《すべ》ての分割の、とっくにすんだ後で、詩人がのっそりやって来た。彼は遥《はる》か遠方からやって来た。ああ、その時は何処にも何も無く、すべての土地に持主の名札が貼られてしまっていた。「ええ情ない! なんで私一人だけが皆から、かまって貰えないのだ。この私が、あなたの一番忠実な息子が?」と大声に苦情を叫びながら、彼はゼウスの玉座の前に身を投げた。「勝手に夢の国で、ぐずぐずしていて、」と神はさえぎった。「何も俺を怨《うら》むわけがない。お前は一体何処にいたのだ。皆が地球を分け合っているとき。」詩人は答えた。「私は、あなたのお傍に。目はあなたのお顔にそそがれて、耳は天上の音楽に聞きほれていました。この心をお許し下さい。あなたの光に陶然《とうぜん》と酔って、地上の事を忘れていたのを。」ゼウスは其の時やさしく言った。「どうすればいい? 地球はみんな呉《く》れてしまった。秋も、狩猟も、市場も、もう俺のものでない。お前が此《こ》の天上に、俺といたいなら時々やって来
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